紙端国体劇場さんの鉄道擬人化が好きで、その中でも宇都宮線もとい東北本線様が大好きで、
何を隠そう私は宇都宮線ユーザーなわけで、そりゃ好きになるわって話なんですけど。
最近作者の青春さんがTwitterで国鉄本線勢のかっこいいカットを披露なさってですね、
その発端になった東北本線が、我らが東北本線様がかっこよくて脳内が危ない。

というか東北新幹線が全通したあたりからだいぶ頭の中が危ないんだけど、
いい加減溢れそうになってきたのでここいらで一度吐き出しておこうかと思います。
妄想しかないので読まないほうがいいと思います。

まだJRが国鉄だったころ、東北本線は日本一の営業キロ数を誇るまさに本線だったわけです。
東北方面からの集団就職を支え、北の玄関口・上野駅までをつなぐ。
本線の中の本線。


そんなある日、上司が突然言うわけです。「新幹線を走らせるぞ」と。
そこで現在の東北新幹線（候補生11番）に初めて引き合わされる東北本線なんだけど、
その頃はきっとまだ「必要とされてるラインだから新幹線が来るんだ」という、むしろ誇りが勝ってた。
まさか自分の線路が寸断されるなんて思ってもみなかった。

当然この時高崎のところにも上越新幹線の話がくるんだけど、
高崎は元々本線じゃないし上越新幹線は高崎の先まで行くから、本当になんとも思ってなかった。


東北新幹線が部分開通して売り上げが落ちてくる区間が出てきたころ、
「僕は必要とされてないんじゃないかな」っていう感覚がようやく出てきて、
そこを第三セクターに移管する話が出始めて、だんだん東北上官が恨めしくなってきて、
恨めしくっていうか、うらやましくなってきて、そして悔しくて、
自分の世界が他人の物になっていく現実が悔しくて悔しくて、悔しくて悲しくて仕方なくて、
でもそんなことは全く表に出さずに、いつも通り淡々と笑顔で業務を進めていくんだけど。


国鉄がJRになって。
ある日、上野‐黒磯間に『宇都宮線』って愛称をつける話が栃木県からやってきて、
愛称だから名前が変わるわけじゃないんだけど、これまでどおり東北本線なんだけど、
もう自分の時代じゃないんだってことが分かってるのに、
首都・東京で『東北線』って呼んでくれる人は限りなくゼロに近づいていくってことで、
北の玄関口を支え続けてきたのにその名前がどんどん無くなっていくってことで、
名前まで新幹線に奪われる気がして。

高崎が事務室の扉の前でうつむいてる東北を見つけて「どうした？」って声をかけるんだけど、
東北は全くの無反応で、だから「東北！」って呼びかけたら突然、東北がバッと顔をあげて、
「僕は東北じゃなくなるんだよ」って一言つぶやいて、部屋に入らずに走っていく。

高崎はそれに全く反応ができなくて、言葉の意味も分からなくて、
ただいつものように笑ってた東北が哀しく見えて、いっそ泣いてるように見えて、
わけがわからなくて事務室に入ると、常磐が『宇都宮線』の話を高崎線に聞かせて、
高崎はすべてを悟って駆け出していくんだけど、どこを探しても見つからなくて、
走りつかれて上野駅のベンチに座ってると、汗だくの高崎に東北が
何もなかったように自販で買った冷たい飲み物を笑顔で差し出す。
「どこにいたんだよ？」って高崎が聞くと「列車を見てた」って東北は答えて、
「時間はお金で買うものだよね」ってまた笑う。
「お前は本線だよ」って高崎が言うと「何言ってるの？ あたりまえじゃないか」ってあっさり言う。
もちろんこの時、東北はそんなこと思ってなくて、それが高崎にもわかってて、
でももう何も言えないから、そのままふたりでしばらく列車を眺めて、
そのうち心配した常磐線が探しに来て、
これまた何事もなかったように「ごめんね」って笑って言って東北は事務室に帰っていく。

「わけわかんねー」って高崎が呟く。「うん」と常磐が返す。
「なんなんだよ、『宇都宮線』って」「名前まで取られちゃうのかね」
「納得いかねー」「今までずっと頑張ってきたのは東北なのにな」
高崎と常磐は日本鉄道時代からの同僚で、特に高崎はずっと東北の隣にいたから、
今は線路も一部共有してるから、人一倍東北のことが心配なわけで。
「なんで泣かねーんだ」「泣いたら負けだと思ってるんじゃないの」
「バカかあいつは」「バカじゃないから苦しんでるんでしょーが」
「……それもそうだな」「そうだよ」
「…アイツは本線だよな」「あぁ。俺たちの本線だ」


本当は、一人でいたときに一筋だけ東北は涙を流してたんだけど、
それは誰も知らない。


東北本線の首都圏区間は『宇都宮線』になった。
駅の案内板が取り換えられて、それを東北は見ようとしないんだけど、
高崎と常磐が五月蝿いからしぶしぶ上を見上げる。
そこには「宇都宮線（東北線）」って書かれていて、それを見た東北は、

やっぱりいつものように笑った。


東北新幹線が全通した日、東北本線の営業キロ数は東海道本線を下回って日本第３位に転落。
それでも今日も宇都宮線は、東北本線は走り続けている。




以上、終わり！